OTUニュース
20090910号
A君の夏


  梅雨入り宣言の翌日からさっぱり雨が降らなくなった。気温は連日30度近くで、学校園のプールからは元気な歓声があがっていることだろう。
  いつだったか、4年生になるまで一度もプールに入ったことのないA君を担任したことがある。おじいさんっ子だったA君は農作業の手伝いで、毎日田や畑に行っていたという。ある冬の日、消えかかった焚き火に油を注ごうとしたA君が炎に包まれた。農機具用のガソリンだったのだ。何年にも渡る移植手術の結果、「元気」にはなったが、顔を除く全身に「痕」が残った。だからA君は夏でも長袖・長ズボンだ。紫外線や塩素が皮膚に悪影響を及ぼすならしかたないが、「隠す」ためだとしたらそれはしんどいことに違いない。いつまでも「隠せる」わけでもない。2年後の修学旅行をもう憂いていたA君。夜のお風呂が心配なのだ。楽しいプールも修学旅行からさえも逃げ出したいA君の重たい心は一刻も早く何とかしなければと思っていた。連日の家庭訪問、家族や本人との話し込み。それからしばらくして「今日の夕方、水着を買いに行きます」と母親から連絡が入った。初めは長袖のシャツを着ていたが、それが半袖になり、やがて肩まで出して水に入るようになった。応援するクラスのなかま。その年度末に私は転勤したが、2年後A君は元気に修学旅行に行ったという。一番知られたくないことが、実は一番知って欲しいことなのかもしれない。
  大人も子どもも、ありのままの自分でいられることが一番自然で、一番「楽」なのだと教えてもらった出来事だった。
(梶原洋一)


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